グラベルロードを買ったものの走る場所がない、どこを走っていいのかわからないという声はよく聞きます。それで結局ロードバイクしか乗らなくなったりするわけです。
確かに日本の道路舗装率は非常に高いですから、純粋な意味でのグラベルを走ろうと思えば山奥の林道にでも行くしかないわけで、そこへ至るまでのアプローチが大変になるんですよね。でもわざわざ遠くへ行かなくても探せば身近なところにグラベルはあるものなんですよ。
そこでグラベル遊びというものに焦点を当てて、その特異性とさまざまな形態について考察してみたいと思います。
グラベルの特異性
行けるとは限らない
一般的な舗装路なら通行止めにでもなっていない限り、行けないということはまずありません。地図上でコースを確認し、さらにRide with GPSなどでルートを作成しておけば、初めての道であっても確実に予定通りのルートをたどることができます。
しかしグラベルとなると話は全く異なります。一般的な国道や県道と違って、林道というのは公式な道路情報というものはほぼ存在せず、現地に行ってみると通行止めだったということはしょっちゅうあります。事前に看板でもあればまだ親切な方ですが、途中まで進んでいきなり道が崩れていたとか工事中だったということもよくある話です。ネット上で最近行った人の情報があれば通れる可能性が高いですが、時間が経っていると崩れていたり倒木がある可能性もあるので、こればっかりは行ってみないとわかりません。
さらには登山道に近い道になるともう全くわかりません。徒歩では通れたとしても自転車で通れる保証は全くないのです。倒木をはじめ、藪、崖、岩場、丸太橋、渡渉など通行の障害になるものは無数に存在します。これらを自転車と一緒に乗り越えるには高度な技術が必要で、多大な危険を伴います。無理と判断されるなら撤退する勇気も必要です。
情報がない
一般的な舗装路サイクリングならSNSで誰かが走っているのを見て行ってみようと思うことも普通にありますね。親切な人に聞けばどこからどう行ったとか詳しく教えてくれるでしょう。最近はstravaなどでルートも公開されているので、全く同じルートをたどることも容易にできます。
しかしグラベルとなるとそう簡単ではありません。よほど有名な林道などを除いて、グラベルの情報というのはまず表に出てきません。具体的なルートはおろか、出発地や分岐点、立ち寄った場所までが厳重に秘匿されます。だいたいどこの山域とか、ぼんやりした情報しか出てきません。ダイレクトメールなどで直接情報を聞き出そうとしても、自分で探せと冷たくあしらわれるでしょう。これは別に意地悪をしているのではなく、グラベル情報は他人がみだりに踏み込まないように公にしてはならないという暗黙のルールがあるからです。
したがって、グラベルの情報というのはさまざまなソースをかき集めて、そこから自分で推理し発見していくしかないのです。これがグラベルの難しさであり面白さでもありますね。
グラベルの見つけ方
自分で発見する
自分でグラベルを見つけるために必要なものは、まず国土地理院の地形図です。昔は紙の地図をいちいち買ってましたが、今はネット上で日本全国見られるようになったので大変便利になりました。これがなければ始まりません。地形図の中で一本の黒線で描かれている道や、点線で描かれている道に注目します。このうち点線道は登山道の可能性が高いので、初心者は黒線道を探すのがいいでしょう。実際は黒線道であっても簡易舗装されていることは多いのですが、それが山間部であればグラベルの可能性も高まります。
次に補助資料としてGoogleマップを活用します。地形図で見つけた道のあたりを航空写真で見てみます。樹木に覆われて見えないことも多いですが、空が開けている場所では路面の様子を垣間見ることができます。拡大して見れば舗装路かグラベルかはおおよそ判断できます。車が通れる林道であれば2本の轍が見えるのですぐわかります。
最近は林道でもストリートビューが入っていることが多いので参考になりますが、これは舗装林道がほとんどでさすがに未舗装までは網羅していません。それでも入口付近の様子がわかればだいたいどんな道かは想像することができます。
それ以外にヤマレコやYAMAPなどの登山SNSも情報源となります。主に登山道が中心ですが、山屋は林道を歩くことも多いので実際の写真とともに貴重な情報が得られます。もちろん徒歩で行けたからといって自転車で行けるとは限らないので、その点は注意が必要です。
もう一つの方法として、自分で適当に走っていたら気になるグラベルを見つけて入ってみたということもあるでしょう。地図に載っているかどうかは別として、とりあえず行けるところまで行ってみて抜けられたら儲けもの、行き止まりでも引き返せばいいくらいの気持ちでやると新たな発見があるかもしれません。
ネット情報から発見する
SNSやブログなどネット上ではグラベルの情報が秘匿されるのは常ですが、そこから断片的な情報をつなぎ合わせてルートを推定していくのは実はグラベル遊びの醍醐味なのです。あからさまに情報は表に出さないにしても、投稿者はたいていヒントを残してくれています。そこから読み解いてルートを完全に特定することはまるで推理小説を読み進めるような面白さがあります。
これをやるにもまず必要なものは国土地理院の地形図です。おおよその山域がわかれば、その付近で通りそうな林道などを探していきます。もちろん地図には載っていない林道もあるので、その点は注意が必要です。重要な手がかりになるのは遠くに見える山並みです。登ったことのある山なら山容ですぐわかります。そして山と山の重なり具合を見ればどの方角から撮影されたかがわかります。そうやって現在地を特定していくのです。たとえ知らない山域であっても、地形図が立体的に見える人なら尾根の形状から想像することができます。
ここでもGoogleマップは補助資料として活用できます。展望の良いガレた場所などは航空写真にもはっきり映るので、経由地を特定する手がかりになります。そして入山口や下山口など人里に近い写真があればこれは有力な手がかりです。たいていストリートビューがあるはずなので、その場所を探します。といってもやみくもに探しても見つかりません。地形図から判断して、この場所から入ってここへ降りたのだろうと仮説を立てた上で、その周辺を集中的に探します。すると民家の特徴などから写真とピッタリ合致する場所が見つかるのです。これはかなりの快感です。本気でグラベル情報を探している人はそこまでやっているのでどんなに隠しても無駄です(笑)。
グラベル遊びの形態
林道サイクリング
何と言ってもグラベル遊びの王道はこれでしょう。林道は自動車の通行を目的として作られたものですから、押し歩くことはあっても担ぎは基本的にありません。初心者にも取り付きやすいのがメリット。
誰もが知っている有名な林道であれば公にされた情報はたくさんあるし、オフロードバイクもよく入っているのでYouTubeで走行動画を見ることもできます。直近の情報があれば行ける可能性は高いと判断できます。初心者はまずこの辺りから入ってみるのがいいでしょう。林道といっても全てが未舗装というのは稀で、たいてい一部が未舗装ということが多いのですが、それも初心者にとっては安心材料になります。
ただ未舗装の林道というのはかなり山奥へ行かないとないため、よほど僻地に住んでいない限り、どうしても車や輪行などの移動手段が必要になります。あまり気軽には行けないのがデメリットと言えるでしょう。
パスハンティング
これは別名山岳サイクリングとか、略して山サイあるいは山菜と書かれることもあります。要するに文字通り峠越えのことです。その対象は昔ながらの街道であったり、登山道の上にある峠まで多岐にわたります。基本的には林道というよりは歩行者のみが通れる登山道が対象になることが多いです。
パスハンティングの最大の醍醐味は、舗装路ではつながらない二つの地点を自転車でつなぐことにあります。通常は考えられないルートを結ぶことに何とも言えないロマンを感じるのです。これを完抜けと呼びます。徒歩で行けばいいと思われるかもしれませんが、20キロを超えると徒歩でぐるっと回って帰ってくるのは困難になります。そこで自転車と一緒に峠を越えて周回できれば数十キロにわたる長丁場でも可能になるわけです。下山地点に自転車をデポして徒歩で峠を越え、出発地に戻ってくるという方法もありますが、これを一人でやるのは結構大変なんですよね。だから自転車ごと峠を越えることには大きな意味があります。
ただ行程の大半が登山道となることから、担ぎが必須になります。これが想像以上に大変。藪が茂っていたり、溝状に掘れた道では人間一人しか通れる幅がないため自転車を押し歩くことはできません。こうなると担ぐしかありません。しかしグラベルロードは重い。この前、白石畑から松尾山まで縦走しましたが、わずかな距離でも自転車を担いで歩くのは想像以上の労力を要しました。しかも自転車を担いでいるとバランスを崩して斜面を滑ったり、最悪は崖から落ちる危険性もあります。徒歩なら何でもない道なんですが、自転車を担いだ途端に難度が跳ね上がることを実感しました。パスハンティングは登山の何倍も危険な行為ですから、万人におすすめできるものではありません。
ライド&ハイク
これは行けるところまで自転車で行き、最後は徒歩で目的地に到達するスタイルです。ハイブリッド登山とも言いますが、対象は必ずしも山頂だけにとどまらないのであえてライド&ハイクと呼ぶことにします。
パスハンティングとの大きな違いは、峠を越えることを目的としないということです。どこかに自転車をデポしてそこから目的地まで歩くわけですから必ず自転車まで戻ってこなければなりません。したがって必然的に峠を越えるスタイルには向かないのです。自転車から目的地までは徒歩でピストンが基本になります。もちろん自転車のコースは周回であってもそれは可能です。
自転車で進むことが困難になった地点から徒歩に切り替えるため、パスハンティングに比べると安全です。山頂を目指すのが目的であればハイブリッド登山となりますが、そうでなくても目的地はたくさんあります。Googleマップを眺めていると山の中にある城跡とか遺跡など面白そうな場所が結構見つかります。そういう場所は身近なところにもあるので、自走で行ける範囲でも十分楽しめます。この前、八つ岩ハイキングに行きましたが、このスタイルは楽しいと思いました。安全性を考えても一番おすすめできる遊び方ですね。
危険回避のために
一般的なサイクリングと違って、グラベル遊びは交通事故に遭う可能性は低い代わりに遭難する危険性があります。特にパスハンティングは危険性が高いため、無理と感じたら即座に撤退する冷静な判断力が必要です。無理に突破しようとして進退窮まり遭難するようなことは絶対に避けなければなりません。
危険回避のために必要なことは、何よりも撤退を容易にすることです。グラベル遊びで撤退するのはむしろ当たり前、抜けられたら儲けものと思いましょう。撤退は敗北ではありません。
一般的に峠を境に舗装と未舗装が分かれることも多く、基本的には舗装の長い側から登って未舗装を下るというのがグラベルのセオリーとなっています。なぜなら未舗装を登るのはタイヤのグリップが効かなくて労力を要するのに対し、舗装路の登りは楽だからです。確かに未舗装の下りが確実に通れるとわかっていればこの方法がベストです。
ただ万が一、未舗装の下りで通行止めになっていたり、道がなくなっていたらどうなるでしょう? そこからまた未舗装を登り返して峠まで戻らないといけませんね。これが出口近くだと悲惨なことになります。そんな時でも必ず元来た道を戻る、これが山の鉄則です。しかし日没が迫っていたりして焦っていると人は冷静な判断力を失います。往々にして崖を担いで強行突破しようとか無茶なことを考えてしまうのです。これは即遭難につながるので絶対にやってはいけません。林道なんてまず携帯は通じませんから遭難したらどうしようもないですよ。誰にも発見されない可能性が高いです。
ですから撤退を容易にするためには逆に未舗装の側から登って舗装路に下りるのもアリなんです。確かに未舗装の登りはしんどいですが、どうせ乗れないんなら押し歩けばいいし、時間はかかってもいつか峠にたどり着きます。万が一、途中で通れない箇所があったらその時点で引き返せば最小限の労力で済みます。首尾良く峠を越えられて人里に下ってくればあとはもう安心できます。
要は地図を眺めた上でコースをよく吟味し、セオリーにはとらわれずどちらから行くのがより安全か総合的に判断することが大切ですね。
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