「軽量化すれば速くなる」のウソを暴く

スポンサーリンク
ロードバイク自転車

ロードバイクにまつわる常識は実に多くありますが、中でも最たるものは軽量化でしょう。軽さは正義と言われて絶対的に価値あるものとされています。自転車を軽くすれば速くなると信じているロード乗りの何と多いことか。これはほとんど信仰に近いもので誰も疑いません。

でも前の記事で書きましたように、自転車を軽くしても全く速くなってないことに気付いてしまったのです。それどころか遅くなってるじゃないかという話です。これってどういうこと? 速くならないのは何か理由があるはず。それを理論的に裏付けしないと気が済まないのですね。そこで今回は軽量化がスピードアップにつながらない理由を物理的に考察してみます。こういうところが理系人間の習性なんだよなぁ・・(笑)

多くの人が犯している勘違い

ロードバイクってほとんど10kg以下ですから、1kg軽くすれば結構大きいように思えます。10kgに対して1kgは10パーセントですからね。でもこれは物理的に言いますととんでもない勘違いです。

物理法則には質量という概念が必ずと言っていいほど登場しますが、ここで言う質量とは自転車だけでなく人間も合わせた総重量のことです。なぜなら自転車と人間は常に一緒に動いているため、一体のものとして扱わなければならないからです。

ここで忘れてはならないのは、自転車よりも人間の方がはるかに重いということです。ですから自転車を1kg軽量化しても全体から見れば微々たるものです。たとえば体重60kgの人の場合、10kgの自転車を1kg軽量化したとすると、その影響は1kg/70kg=0.014、わずか1.4パーセントでしかありません。だから1kgの軽量化なんて大した意味はないのです。ましてや数百グラムの軽量化なんて誤差の範囲内です。まずここが誤解の原因なのですね。

軽量化の効果を物理的に検証してみる

軽量化は意味がないということを理論的に説明するために、具体例を挙げて計算してみましょう。一番わかりやすいのはヒルクライムです。力学的には、出せるパワーが同じだと仮定すればヒルクライムの速さは単純に質量に反比例することがわかっています。ここで言う質量とはもちろん自転車と人間を合わせた総重量のことです。つまりヒルクライムの時だけは重さがまともに速さに影響してくるわけです。

一方、平地では重さの影響はほとんどありません。これは慣性があるからです。正確に言いますと重いほど加速が悪くなりますから、市街地のようにストップ&ゴーが多い場合は多少の影響はあるでしょう。しかしいったんスピードに乗ってしまえば重さは全く関係なくなるため、信号の少ない郊外のサイクリングでは重さの影響はほとんどないと考えてよいのです。したがって軽量化の効果を見積もるには上りだけを考えれば十分ということになります。

以前解説しましたように、ヒルクライム時の平均パワーは総重量と標高差と所要タイムから簡単に求められます。つまり、

平均パワー=総重量×重力加速度×標高差/所要タイム

です。詳しくは下の記事を参照して下さい。

誰でもできる簡単なパワー計測法
GPSログからパワーを計算する方法(応用編)で走行中の自転車に働いている抵抗力には大きく分けて重力抵抗・空気抵抗・転がり抵抗の3つがあることを説明しました。 実際のパワー計算はプログラムに組み込みますので、その中身について知る必要はありませ...

また自分の出せるパワーがおおよそわかっていれば、逆に所要タイムを計算することも可能です。上の式より、所要タイムについて求めますと次のようになります。

所要タイム=総重量×重力加速度×標高差/平均パワー

ここで平均パワーがいくらかということが問題になりますが、これにはFTPを用いることができます。FTPというのは1時間持続して出すことができる最大パワーと定義されています。これは以前「轍」に実装してGPSログから推測することが可能です。詳しくは下の記事を参照して下さい。

貧脚判定器を開発しました
自転車のモチベーションを上げるには練習の成果が数値化できると嬉しいですよね。まあタイムを測るだけでも良いのですが、タイムというのは気象条件や路面状況によっても左右されやすいので、あまり適切ではありません。そこで最近よく行われているのがパワー...

自分の場合FTPがいくらかというと、様々なログを総合した結果、およそFTP=120W前後であることがわかっています。これをさらに体重で割ったものがパワーウェイトレシオ(PWR)と定義されますが、体重を57kgとするとPWR=2.1W/kgということになります。脚力レベルから言いますとPWR=2.5W/kg未満は貧脚と判定されますので、まぎれもなく貧脚です(笑)。

ここまでわかったところで、自分の場合、所要タイムがいくらになるか具体的に計算してみましょう。そして自転車を1kg軽量化したらタイムはどのくらい縮まるのか見積もってみます。

まず設定として、標高差400mを10kmで登るヒルクライムを想定します。平均勾配は4%ということですね。まあ中程度の坂くらいでしょう。本来タイムは標高差だけで決まるため距離は全く関係ないのですが、ここでは平均速度を求めるために一応距離も設定しました。

そして体重は57kg、重力加速度は9.81m/s2とします。また自転車の重さは装備込みで10kgとし、そこから1kg軽量化して9kgにした場合と比較します。

まず自転車の重さを10kgとした場合、上の式に当てはめると所要タイムと平均速度は次のようになります。

所要タイム=(10kg + 57kg)×9.81m/s2×400m/120W=2191秒

平均速度=10km/2191秒=4.564m/s=16.43km/h

次に自転車を9kgに軽量化した場合、同様に計算すると次のようになります。

所要タイム=(9kg + 57kg)×9.81m/s2×400m/120W=2158秒

平均速度=10km/2158秒=4.634m/s=16.68km/h

以上より、自転車を1kg軽量化してもタイムはわずか33秒、平均速度は0.25km/hしか速くならないことがわかりました。実際のサイクリングでは上りばっかりということはありません。初めに述べたように下りや平坦では重さの影響はほとんどありませんので、全体の平均速度に及ぼす重さの影響はさらに薄められてほとんどわからなくなります。これが自転車を軽量化してもちっとも速くならない本当の理由だったのです。納得していただけたでしょうか?(笑)

軽量化の意味があるのはヒルクライム上級者だけ

何度も言ってますように、重さの影響を受けるのは上り区間だけです。上の考察により、ヒルクライム時の軽量化による効果はないとは言いませんが、全体のタイムから考えると微々たるものです。それはちょうど総重量の比であることがわかるでしょう。上の例で言いますと、自転車を1kg軽量化したことによるタイム短縮効果は66kg/67kg=0.985倍に過ぎません。すなわち1.5パーセントの効果しかないのです。自転車を1kg軽量化すれば何となく1割くらい速くなるというイメージを持っている人が多いと思いますが、それは単なる幻想です。これは物理法則ですから絶対に覆せないのです。

しかも普段のサイクリングでは上りだけではありませんから、たとえ上りで数十秒稼いだとしても全体の中では埋もれてしまいます。そんなものはちょっと休憩しただけですぐ消えてしまいます。何の意味もありません。唯一意味があるのは、ヒルクライムレースのように上りだけというきわめて特殊な状況に限られます。

ヒルクライムレースであっても貧脚にとっては数十秒の差というのは意味を持ちません。なぜなら後ろの方になるとほぼ一人旅状態なので、数十秒速くなったところで順位にはほぼ影響しないからです。僕がそうでした(笑)。しかしこれが上位クラスになると状況は一変します。上位の方になると数十秒以内にライバルがひしめき合っているため、たとえ1秒の差であっても順位に大きな影響が出てきます。それこそ勝敗を分けることもあるでしょう。ですから1秒と言えども無視はできないのです。レースで優勝するような人はできることなら何でもしたいと考えるでしょう。自転車の軽量化もそのうちの一つ。もちろんトレーニングが第一であることは言うまでもありませんが、できることを全てやって最後の最後は軽量化で1秒を削り出すという考え方です。それは正義と言えます。

これは例えて言いますと競泳の水着問題と全く同じです。最近は高機能素材の進歩で水の抵抗を極限まで減らしたり、浮力を高める水着が開発されるようになりました。いわゆる高速水着です。そういうものを使うとタイムが向上したからと言って、一時はオリンピックでも流行った時期がありました。しかしそれによる効果というのは100メートル泳いで0.1秒もないくらいでしょう。でも世界のトップ選手にとってはたとえ100分の1秒であっても大きな違いです。だからこそそういうものにすがりたくなるのでしょう。ちなみに現在では不公平になるからという理由で公式競技では高速水着の使用は厳しく制限されています。もちろん一般人が使っても何の意味もないことは言うまでもありません。しかし自転車の軽量化はそれと同じことをやっているのですね。体力の衰えたおっさんがやってるのはかなり滑稽です(笑)。

自転車乗りはなぜ軽量化に走るのか?

上の議論ではヒルクライムレースで優勝を狙うのでない限り、軽量化なんて全く意味がないよという話をしました。それでも軽量化に走る人は後を絶ちません。特におっさん(笑)。体力が衰えてきたので機材ドーピングと称して軽量化に大金を注ぎ込んでる人多くないですか? それって全く意味ないんですけどね(笑)。おっさんが軽量化に走る理由はただ一つ、物欲を正当化するための言い訳に過ぎないのです(爆)。それ以外にあり得ません。要するに高価な機材を自慢したいだけなんですよね・・

中には軽量化して速くなったよという人もいるでしょう。でも物理的には意味がないことが明らかなんですから、それはほぼ思い込みです。いわゆるプラシーボ効果ってやつですね。おそらく「こんなに軽いんだから速くなるはずだ」あるいは「こんなにお金をかけたんだから頑張らないといけない」という思い込みが速くさせているのでしょう。ほとんどオカルトの世界です(笑)。

自転車を1kg軽量化したところでせいぜい1.5パーセントくらいの効果しかないのです。しかしFTPを10W上げるだけでもっと速くなれます。たとえばFTPを120Wから130Wに上げると上りの平均速度は130W/120W=1.083倍、すなわち8.3パーセントも向上するのです。貧脚であるほどこの効果は大きいですから、自分が貧脚だと思っている人はまずFTPを上げることを考えましょう。

そして言うまでもなく自分の体重を減らしましょう。ヒルクライムのタイムは総重量に比例しますから、体重が大きいほど自転車を軽量化する意味はなくなります。体重80kgの人が10kgの自転車を9kgにしても1kg/90kg=1.1パーセントの効果しかありません。ほとんどお金の無駄です(笑)。それより体重を2kg落とす方が効果は2倍ですよ。

ですからおっさんに言えることは、まず自分の体重落とせ→トレーニングしてFTPを上げろ、の順です。最初に自転車の軽量化をやるのは単なる自己満足です。順序が間違っています。まあ高価な機材を見せびらかしたい人はご自由にどうぞってとこですね。自転車業界としても、軽量化がいかにも効果あるように思わせて高価な機材を売りたいという意図が透けて見えますね。おっさんは金だけは持ってますから、ついつい信じて買っちゃうんですよね。いいカモです。業界の思惑に踊らされてはいけません。

軽量化は精神衛生上良くない

誰にも経験あるでしょうが、いったん軽量化にこだわり出すとそれしか考えられなくなります。自分もそうです(笑)。パーツを交換するたびに重さを測って何グラム軽くなったとか重くなったとか一喜一憂するんですよね(笑)。もう重くすることなんて初めから考えられないんですよ。パーツ交換でわずかでも重くなってしまったら、それ自体がストレスになります。

これがさらにエスカレートすると、荷物の軽量化にも手を出します。無駄な荷物を徹底的に削り始めます。僕はまずカメラを排除しました。しまいには財布を軽量化するため小銭をセルフレジで吐き出して減らしました(笑)。ここまで来るともう病気です(爆)。

軽量化はいったん気にし出したら止まらない。精神衛生上、百害あって一利なしです。

軽量化と快適性は相反する

自転車を軽くするということは、快適性を犠牲にするということに他なりません。たとえばサドル。クッションが厚くて柔らかいサドルは座り心地が良いですが、その分重くて平気で400g以上あったりします。100g台の超軽量サドルなんてもうペラペラですよね。あんなもの尻が痛くて乗ってられないでしょう。僕には無理です(笑)。タイヤもそう。細いタイヤは軽いけど乗り心地がすこぶる悪いです。昔は軽いからという理由で23Cしか使わない主義でしたが、今は25Cが当たり前。それどころかさらなる快適性を求めて28Cにしたいと思っているくらいです。

要するに快適性を求めるほど重くなっていくということですね。これは避けられません。両立はできないのです。

おっさんは軽量化より快適性と楽しさを取れ!

自転車を軽量化しても無意味だということを理論的に裏付けて自分を納得させましたので、気持ちが楽になりました(笑)。軽量化しても速くならないということは、重くしても遅くならないということでもあります。これで安心して重量化に励めます(笑)。軽量化という呪縛からの解放ですよ。

もともとロードバイクというのは極限まで無駄を削ぎ落として速く走るためだけに作られた自転車です。ですからもとより快適性なんて考えられてないんですよね。乗り心地悪い、尻が痛い、手が痛いなんてのは当たり前のことです。でもおっさんになるとやれ首が痛い、肩が痛い、腰が痛い、膝が痛いなど、体のあちこちが痛くなってくるんですよね(笑)。そりゃガチガチのロードバイクみたいに乗り心地の悪い自転車に乗ってたらさらに体を悪くするのは当たり前ですよ。

そこで少しでも体に与えるダメージを減らすため、乗り心地を改善する必要性があります。たとえばタイヤを太くする、サドルを柔らかいタイプに交換するなどは一つの方法でしょう。いずれも重くなる方向であることには違いありません。

またおっさんになると速く走ることにさほど意味がなくなります。まあ年齢別クラスで優勝を狙っているような人は別として、普通のおっさんはただ走るだけじゃつまらんでしょ? きれいな景色を見て写真を撮りたいとか、外でコーヒーを沸かして飲みたいとか、何らかのエンターテインメント性が必要になってくるんですよ。つまりファンライドです。そうなると荷物が増えますね。たくさん荷物を積むためには大きなバッグを付ける必要があります。もちろん重量は大幅増加。でもどうせ軽量化しても速くならないんですから、そんなの気にしてはいけません。

そうなるとおっさんに向いている自転車は軽量ロードではなく、タイヤが太くて乗り心地が良く、荷物がたくさん積めるグラベルロードということになりますね。もちろんかなり重いです。だいたい10.5~12kg程度。でもその程度ならスピードに与える影響はごくわずかということが上の議論からおわかりでしょう。自分は重さを嫌ってグラベルロードを却下しましたが、その頃は軽量化信仰が根強く、考えが及ばなかったんですね。軽量化のウソにもっと早く気付いていれば結果はまた違っただろうと思います。

こうなるとまたロードバイク不要論が復活してくるんだよなぁ・・(爆)

スポンサーリンク
SORAをフォローする