実走日:2005年4月24日(日)
コース:久部良~南牧場~比川~立神岩~サンニヌ台~東崎~祖納~ダンヌ浜~久部良
今日は今回のツアーのメインとも言える与那国島一周。明日朝のフェリーで帰らなければならないため、与那国島を回れるのは今日一日しかないのだ。昨日の天気予報では芳しくなかったが、今日の朝になって曇り時々晴れに好転。まずまずの天気のようだ。こんな日に雨が降ったら元も子もない。民宿で朝食をとり、なるべく早めに8時半頃出発。コースは反時計回りに一周することにする。アップダウンの激しい南海岸を早めにクリアしておいた方がいいからだ。
西崎灯台入口を右に見て、そのまま南牧場への道に入る。牧場の入口にはテキサスゲートと呼ばれる仕掛けがある。道路と垂直にコンクリートで幅10cmくらいのスリット状の溝が作られていて、馬が外へ逃げ出さないようになっている。与那国島にはこのテキサスゲートが何ヶ所かあって、車は問題なく通れるけれども自転車には厳しいのだ。そのたびに降りて押さなければならない。牧場内に入ると緑一面の広々とした草原が気持ちいい。あちこちでヨナグニウマがのんびりと草を喰む光景が見られる。
この南牧場を通る道路は比較的最近できたようで、少し古い地図には載っていない。ほとんど通る車もないのにずいぶん立派な道路だ。乗用車よりはツーリングライダーが結構走っている。本土からわざわざバイクを積んで来るとなるとフェリーしかないから大変だろう。その点、自転車は飛行機でどこでも行けるから便利だ。牧場内の道は常に右手に海を見ながら爽快に走れる。道の真ん中を堂々とヨナグニウマが歩いていたりして微笑ましい。もちろん馬の「落とし物」もあちこちにある。
牧場を抜けるとまたテキサスゲートがあり、一瞬行き止まりになったのかと思うような場所がある。その先に細い地道が続いていて、すぐ舗装に変わりカタブル浜に出る。養殖場の横を通って間もなく南岸唯一の集落である比川に着く。小学校の横を抜けていくと比川浜に出た。与那国島は周囲を断崖絶壁に囲まれていて泳げるビーチが少ないけれども、この比川浜は与那国島で最も美しいビーチである。
比川自体は小ぢんまりとした集落で静かなところだけれども、ここを有名にしているのが「Dr.コトー診療所」のオープンセットである。それは比川浜の片隅にポツンとたたずんでいる。離島の診療所を舞台にした吉岡秀隆主演のテレビドラマ、残念ながら僕は見ていないのでこれといった思い入れはない。しかしこの薄汚い建物(失礼!)は実に味があって、はじめからここに存在していたとしてもまったく違和感がない。周りの廃船や生活道具なども含めてすべてセットの一部だが、そう言われなければわからないほど風景に溶け込んでいる。古びて消えかかった「志木那島診療所」の看板がいい味を出している。中には入れないけれども、屋上には登れるので上からの眺めを楽しんだ。
比川を後にしていよいよ難関にさしかかる。標高差70mを一気に上る激坂が目の前にある。直線的に上るため非常にきつい。眼下に比川の集落が広がる。
あまりにきついので車が来ないのをいいことにジグザグ上りを始める。MTBのインナーを使わないと上れないような坂だ。やっと上り切って一息ついたところに標識があり、右折して立神岩方面への道に入る。少し行くと牧場内を走る道と交差する橋がある。
まだしばらくダラダラと上りは続くが、もう大したことはない。このあたりは島の中で最も山深い部分で、まったく人の気配がない。左手には島の最高峰である宇良部岳がそびえている。あと二度ほどアップダウンを繰り返してから道が下り始めると、まもなく立神岩を真上から眺められる展望台に着く。真上から見ると形はよくわからないが、かなり大きいことはわかる。
そこからもう500mほど行くと、立神岩が最も美しく見える展望台がある。ここは東屋や駐車場があってよく整備されている。展望台に上ってみると海にそそり立つ立神岩がきれいに見える。延々と続く断崖絶壁も見事である。そしてありがたいことに、ここへ来て奇跡的に晴れてきたのだ。西の方から急速に青空が広がってきた。これから東崎にかけて最もいいところで晴れてくれたのはラッキーだった。
立神岩展望台からサンニヌ台に向かって少し坂を下ると左手に小さな池があって、牛がのんびりと水浴びをしていたりする。その向こうには宇良部岳が見守っている。
まもなくサンニヌ台の駐車場に着いて、自転車を置いて遊歩道を歩いていく。ここはNHKの大河ドラマ「琉球の風」のロケ地になったらしく、それを記念する石碑が立っている。断崖絶壁につけられた遊歩道を歩いていくと、正面に黒っぽい四角い岩が現れる。これが軍艦岩だ。下の細長い岩と合わせてちょうど軍艦のように見えることからこの名がある。
断崖の先端から下を見下ろすと、サンニヌ台と呼ばれる平べったい岩がある。写真ではスケールがよくわからないが、実際はものすごく大きなものである。いわゆる「千畳敷」くらいはあるだろう。
そして東の方を見ると、これから向かう東崎(あがりざき)が細長く突き出しているのがよく見える。ちなみに八重山地方では東のことをアガリと読み、西をイリと読む。いずれも太陽の方角を表しているから実に単純明快だ。
サンニヌ台から東崎まではあと1kmほどだけれども、また結構上らされてしんどい。緑の丘の上にうねうねと続く道、それに風車がアクセントを添えている。
やっと東崎の駐車場に着いて、車の人はここから歩いていくけれども、自転車はさらに舗装された遊歩道を東屋まで入ることができる。ビロードのような一面の緑に覆われた岬の先端に白亜の灯台が建っている。日本最西端ということで西崎の方が有名だが、風景は断然こちらの方が素晴らしい。
東屋に自転車を置いて灯台の方へ歩いていく。灯台自体はそれほど立派なものではないけれども、ここから見る風景は実に素晴らしい。
東の方を眺めるとこれから向かう東牧場や、リーフに打ち付ける白波が延々と続く光景が雄大だ。天気も良くなってきて気持ちいい。本当にここまで来れて良かったと思う。
とても気持ちのいいところなのでのんびりしていきたいところだが、まだ行程も半分だからそういうわけにもいかない。時間は12時前でほぼ予定通りである。後ろ髪を引かれるように東崎を後にする。巨大な風車の真下を通った後、東牧場に入る。ここから宇良部岳にかけてゆるやかな丘陵地帯が広がっているのがよくわかる。またテキサスゲートを通過した後、道は祖納へ向けて一気に下り始める。
しかし、ここで恐れていた事態が起こった。今にもちぎれそうになっていたボトルケージがペットボトルもろとも音を立てて道に転がったのである。とうとう落ちたか。もうどうにもならないけれども、捨てるわけにもいかないのでフロントバッグに突っ込んでおく。これからボトルはフロントバッグに入れるしかない。ただでさえ重いハンドルがますます重くなってしまう。でもまあ走るのは今日限りだから何とか我慢できるだろう。
坂をどんどん下っていって祖納の集落に近づくと、右手に浦野墓地と呼ばれる広大な墓地が現れる。まるでギリシアの遺跡を思わせるような石ばかりでできた異様な光景である。しかし墓地という暗いイメージがまったくなくて、一番景色のいい場所に海を眺めるようにゆったりと広がっているのである。別名「死者の都」とも呼ばれている。ここに眠る人も幸せなのだろう。その墓地を抜けたところでいったん道が分岐し、左の道へ入っていく。ここから祖納の集落に入るが、どこをどう抜けたのかよくわからないままに適当に走っていく。まあいずれはメインストリートに出るだろう。赤瓦の伝統的な家屋も残っていて思わず写真を撮る。
そしていつの間にか与那国町役場の前に出た。間違いなくこの辺が集落の中心だろう。
もう12時を過ぎたので食事のできる店を探しているのだが、なかなか見つからない。同じところを何度もぐるぐる徘徊しながら、ふと後ろを振り返ると「マルキ食堂」という看板が目に入った。開いているようだから迷わずそこへ入る。地元では有名な店のようで、結構賑わっている。とりあえず「与那国そば」を注文。八重山そばとよく似ているようだが、入っているのは豚肉ではなく馬肉か? それにしても500円にしてはすごいボリュームだった。サイクリストにはありがたい。
腹も落ち着いたことで、次は祖納のすぐ後ろにそびえ立つ絶壁ティンダハナタに上ってみる。警察署の横に標識があって迷わず上っていくが、一直線の激坂だ。またお得意のジグザグ上りが登場する。第一ヘアピンを回った後、第二ヘアピンのところに遊歩道入口があるのだが、そこを見落としてさらに上ってしまった。そのまま上っていくといつの間にか牧場に出た。ティンダハナタの上は平らになっているのだ。どうやら行き過ぎたことに気づき、また第二ヘアピンまで引き返す。車が止まっているのになぜ気づかなかったのだろう?
駐車場に自転車を置いて遊歩道を歩いていく。道は絶壁を這うようにほぼ水平に続いている。途中、湧き水もある。そして5分もかかるかどうかのうちにベンチのある展望台に出た。ティンダハナタは巨大な岩盤の側面が溝状にえぐれて天然の回廊となっている。標高は60mくらいだろうか。ここからの展望は実に素晴らしく、祖納の町並みが一望の下に見渡せる。苦労して上ってきた甲斐があった。
ティンダハナタで展望を楽しんだ後、最終目的地のダンヌ浜をめざす。ティンダハナタの前には製糖工場があり、ちょっとした丘を越えるとまもなく与那国空港に着く。離島の空港ではあるけれども、ジェット機が発着するだけあって滑走路は長く、結構立派である。もっとも一日1~2便の飛行機が発着する時間以外は人の出入りもなく閑散としている。ほとんどの人にとってはここが玄関口なのだ。
空港からさらに丘を越えて西へ進むとダンヌ浜入口の標識があり、右折する。坂を下っていくと終点に老人福祉施設があって、その前の砂浜がダンヌ浜だ。猫の額ほどの小さなビーチではあるが、ちゃんと更衣室とシャワーが完備されている。ここへ来てあいにくどんよりと曇ってきたけれども、せっかくなので海に入っていく。しかしちょうど引き潮のようで浅すぎて泳げない。とりあえずつかっただけ。魚も見られないようでがっかり。海の中は暖かいのだけれども外へ出るとちょっと寒い。あきらめて撤退し、休憩所でしばらくボーッとする。
さて出発しようとしたところ、ふと自転車の後タイヤを見るととんでもない異常を発見。何とタイヤのサイドが少し切れていて、そこから黒いチューブがはみ出しているではないか。今までこの状態で走っていたのか。まさにバースト寸前の状態だった。危ない、危ない。四国遍路のときもタイヤのバーストで撤退を余儀なくされた経験があり、どうも旅に出るとよくパンクに遭遇するのだ。もう旅も終わりに近づいたが、とりあえず家に帰るまではもってくれないと困るので、タイヤの内側からパッチを当てて応急処置を試みる。空気圧を上げるとサイドが少しポコッと飛び出して不安だ。リム打ちしない程度に空気圧を低めにしておく。何とかもってくれることを祈る。あとは2km足らずで久部良である。もう大した坂もないからのんびりと行く。16時過ぎに久部良に戻って無事一周を完了した。まだちょっと早いので、もう一度南牧場まで行ってのんびりしてから民宿に戻る。今日は何とか天気がもってくれてよかった。
翌日は10時のフェリーで帰らなければならないので、早朝散歩しようと思っていたら朝から雨。結局港の周りをぐるっと一周しただけですぐ民宿に戻った。9時半頃フェリーに乗り込むときも雨。近くなので傘をさして自転車を押して行った。フェリーが岩壁を離れると一抹の寂しさが込み上げる。たった2泊3日の滞在で物足りなかったが、フェリーの運航日の関係で仕方がない。次の便にすると5泊6日になってしまうのだ。この島にまた来ることはできるのだろうか?
帰りのフェリーは海も穏やかで楽だった。25日は石垣島でもう一泊した後、26日の飛行機で大阪へ帰った。YHから空港へ行く間、土砂降りの雨が降っていてずぶ濡れを覚悟したが、YHの方のご好意で空港まで車で送っていただけて助かった。本当に感謝を申し上げる次第である。これにて八重山ツアー2005は完結。
走行距離 | 走行時間 | 平均速度 | 最高速度 | 最高地点 | 最大標高差 |
30.95km | 2:08:44 | 14.4km/h | 46.0km/h | 110m 比川~立神岩間 |
110m |