実走日:1995年11月4日(土)
コース:串本~和深~三尾川~明神橋~滝の拝~明神橋~古座~串本
潮岬YHに一泊し、橋杭園地駐車場に車をデポして午前9時ちょうどに出発した。まず国道42号線を串本駅に向かって走る。串本の市街を抜けると道は大きく向きを変え、今度は北上を始める。しばらく漁港が続き、国道371号線との分岐点を過ぎるといよいよ快適なシーサイドランとなる。海側を走っているので太平洋の眺めを存分に楽しむことができる。今日は波が穏やかで、黒潮の海は太陽の光を反射してきらきらと光っていた。このあたりは黒々とした岩礁が多い。また、串本から西は比較的交通量が少ないので走りやすい。海岸線は地形が険しいので、国道はたびたび山側に迂回し、少なくとも紀伊有田駅、田並駅、田子駅、和深駅の手前の4ヶ所では大きなアップダウンがある。このアップダウンさえなければ快適なのだが。トンネルがいくつかあるが、なぜかそのどれもが長さ270m前後であった。270mのトンネルというのは走ってみると結構長い。
和深の交差点で三尾川の標識を確認し、国道42号線と別れて県道串本古座川線に入る。この県道に入ったとたん国道の喧噪が遠のき、急に静かになった。明日は和歌山県知事選挙の投票日で、不在者投票を呼びかける声がスピーカーから流れている。ここから山を越えて古座川町に入ることになり、唯一の上りらしい上りとなる。標高差180mというと大したことはないように見えるが、海抜0mからの上りは結構きつい。最初はゆるやかだった上りも、やがて矢鱈坂と呼ばれるつづら折れの急坂になる。下から見上げると本当に上れるのだろうかと思うような急坂があるが、実際にその場所まで行ってみるとそれほどではないのが不思議である。上るにつれて展望が開けるが、標高100mちょっととは思えないほどの高度感がある。峠の手前は相当な急勾配に加えて、強い向かい風がビュービュー吹いていて6~7km/hのフラフラ状態で上っていた。足が限界になりそうな頃、やっと峠のトンネルが見えた。これは新里川トンネルという1993年に開通した新しいトンネルである。トンネルの左側には旧道と思われる狭い道がさらに上っている。トンネルは200~300mほどの短いものだが、少し上りになっている。トンネルを抜けた少し先が本当の峠であった。なおトンネルの反対側にも旧道らしき道があったため、旧道の峠はすぐこの上にあるのだろう。
峠直下はかなりの急勾配で一気に下る。川沿いになるとゆるやかな下り坂となり、深い山の中を小刻みにカーブする大変気持ちのよい道である。何ヶ所か分岐があるが、標識がしっかりしているので迷うことはない。車もほとんど通らず、静寂そのものである。川沿いだから下りばかりと思っていたら、三尾川に出る手前には少し上り返しがあった。少し上ると集落が見えて、ほどなく三尾川に着いた。
古座川に架かる橋の上で写真を撮り、橋を渡って国道371号線を右折する。この道は国道といっても行き止まりなので、交通量はほとんどない。右手に美しい古座川を眺めながら3kmほど走ると、山の上に突き出した大きな岩が見えてきた。どうやらあれが天柱岩らしい。写真を撮ろうと思うが、完全な逆光で写りそうにない。もう少し先の一枚岩トンネル工事現場まで行くと岩の角度も変わり、写真を撮ることができた。トンネルはほぼ完成している様子で、出口が小さく見えている。さらに古座川沿いに下っていく。古座川は川底の石がはっきりと見えるほどの清流で、河原には白くて丸い石が敷き詰められている。この辺の風景は何とも言えず素晴らしい。やがて川岸にそそり立つ赤茶けた巨大な岩が見えてきた。これが古座川の一枚岩である。本当に一枚の岩でできていて、その大きさは近くで見ると圧倒される。すぐ手前に先ほどの一枚岩トンネルの出口があり、これを通れば相当な近道になるわけだ。一枚岩の前には観光物産センターの変わった形の建物があるが、そこにも観光客の姿はほとんどなく、ひっそりとしていた。町で一番の名所だから結構観光客も来ているものと思っていたが、河原でキャンプをしている人が数人いただけで、予想に反してほとんど人気がなかった。
一枚岩を後にして橋を渡ると、天柱岩が一層尖って見えた。この岩は遠く離れるほどより際立って奇怪に見える。2kmほど走って、短い立合隧道を抜けたところで缶コーヒーを飲んで休憩する。後ろを見るとトンネルの上に筍のように突き出した飯盛岩があった。立合からは広い2車線となり、2kmほど先の上地で国道371号線と別れて県道に入る。そこからさらに3.5km走ると那智勝浦方面への分岐点である明神橋がある。実は昨夜のYHのミーティングでこの先に「滝の拝」という名所があることを教えてもらったので、どうしてもそこに行ってみたかった。それでここから片道約12kmの長いピストンをコースに組み入れた。
那智勝浦町に続くこの県道は、ほとんど山の中ばかりを通っているのであまりいい道ではないだろうと思っていたが、予想に反して路面の状態は良く、改修されて2車線になっている部分もあった。小川(こがわ)に沿ってゆるやかに上っていき、車もほとんど通らない静かな道である。小川は古座川以上に美しい清流で、川底まで透き通り、深い部分はエメラルドグリーンに見える。途中には中崎、山手、小川という比較的大きい集落がある。素堀りの短いトンネルが一つあって楽しい。川沿いだからほとんど平坦だろうと思っていたが、大きなアップダウンが2ヶ所あった。一つは山手地区から小川地区に入るところにある。ここはかなりの急勾配で長い上りである。しかし、そのピークからは川が大きく蛇行する様子が見え、大変素晴らしい眺めであった。もう一つは滝の拝に出る手前にあり、ここは下りの方が長かったように思う。帰りのことを考えると全くうれしくない下りであった。鬱蒼とした林の中をしばらく下り、道が平坦になるとほどなく滝の拝に着いた。
滝の拝は、白っぽい巨大な岩の間を川が流れ、そこに滝がかかっている奇勝である。岩の表面には水流によってえぐられた穴が無数にあり、川の両岸に巨大な岩の塊が数百mに渡って続いている光景はまさに異様である。想像するところ、滝の拝という名は、掌を合わせたような形の岩の隙間から文字通り滝を拝むことができることからついたものであろう。12時30分頃、自転車を置いて河原に降り、上が平らになった岩の上でおにぎりを食べる。ここは地元の人しか知らないような穴場で、訪れる人もほとんどいない。おそらくYHで教えてもらわなければ、まず見つからなかったであろう。日当たりのいい岩の上は本当に暖かく、一日中でものんびりしていたいような気分になるところであった。こんな全く観光地化されていない素晴らしい名所を見つけると何か得したような気分になる。いつまでもそっとしておきたいところであった。
写真を撮ったりしながら1時間を過ごし、13時30分に滝の拝を後にした。途中2ヶ所の上り返しがあるが、それも思ったほどつらくはなく、難なくクリアーできた。その後も上ったり下ったりの繰り返しだが、比較的速いペースで明神橋まで戻った。あとは古座川沿いに下って太平洋に出るだけだ。
明神橋から先は2車線の広い道となり、30km/hくらいで快調に走っていく。2kmほど行くと左手に牡丹岩がある。風化によって無数の穴があいた不気味な岩である。またこのあたりはどこを見ても奇怪な岩峰があり、不思議な景観を作り出している。古座駅の標識を見て橋を渡り、対岸の道に移る。遠くに赤い古座川大橋が見え、次第に海が近づいてきた。
古座の駅前を通り、国道42号線に出た。再び国道の喧噪に巻き込まれる。さっきまでいた滝の拝の静けさから比べると全く別世界のようである。あとは大島を眺めながら串本へ戻るだけだ。しかし予想通り向かい風になった。やがて橋杭岩が遠くに小さく見えてきて、帰ってきたことを実感したが、25km/hほどしか出ないのでなかなか進まない。思えば昨年もここを走っていた。あの時は新宮から延々とよく走ったものだ。途中、対向車線を走ってくるサイクリストとすれ違った。この辺で出会うサイクリストは重装備が多い。紀伊姫の駅を過ぎて、小さなピークを越えると橋杭岩に着いた。時刻は14時41分であった。
走行距離 | 走行時間 | 平均速度 | 最高速度 | 最高地点 | 最大標高差 |
79.27km | 3:40:12 | 21.5km/h | 46.8km/h | 160m 新里川トンネル |
160m |