実走日:1995年7月29日(土)
コース:唐櫃~小滝~岩井~久豆~大杉~新大杉橋(往復)
JR紀勢本線・三瀬谷駅から大台ヶ原の山懐に向かって延びる非常に走行意欲をそそられる一本の道があった。現在は国道422号線となっている道がそれである。この国道は琵琶湖南端の瀬田から信楽を経て伊賀上野に至り、さらに名張まで続いている。そして名張からは併用区間というにはあまりにも長い国道368号線を経由して美杉村の上多気で再び現れる。しかし丹生俣で行き止まりとなり、庄司峠の旧道を経て飯高町の赤桶に続いている。そこからは国道166号線を経由し、深野から湯谷峠を越えて栗谷口に至る。ここで何と本来の流れに逆らうように鋭角で折り返して宮川をさかのぼり、檜原で宮川と別れて野又で行き止まりとなる。その続きは紀伊長島町の十須で再び現れて熊野灘に至るのである。この国道はほとんどが1車線区間で絶好のツーリングコースとなっているが、その非常に変わった経路と、はるか琵琶湖から始まって一見何の関係もなさそうな伊勢の山中に突然現れる意外性には一層興味をそそられる。美杉~飯高間と宮川~紀伊長島間の二ヶ所の未開通区間があるのだが、どちらも大変険しい地形であり、全通するのはいつのことだろうか。
深野~栗谷口間および栗谷口~三瀬谷間は以前走ったことがあるので今回は栗谷口をスタート地点とする。栗谷口までは天理から車で2時間。例によってウロウロしたあげく国道沿いには駐車場所が見つからないので対岸に渡り、唐櫃(からと)付近に駐車できそうなスペースを見つけてそこから出発する。時間は午前10時前。3kmほど宮川右岸の道を走って橋を渡り、小滝で国道422号線に出る。この橋の上から見ると宮川はまるで溝を掘ったように深いところを流れ、その崖の上に水田が広がっている。こういう地形を河岸段丘というのだろうか。宮川は巨岩がゴロゴロした渓流の趣を呈しており、あちらこちらで釣り人の姿が見られる。このあたりの風景はまだ峡谷というほどの圧迫感はなく、広々とした感じがする。
国道に出てちょっと行ったところに「咳の谷公園」があり、小型車なら10台くらい駐車できそうなスペースがあった。水道もあるのでここにした方が良かったかなと思いながら通り過ぎる。さらに2kmほど行った神滝では工事中のため通行止の標識があり、橋を渡って対岸の道へ迂回させられる。里中で再び国道に戻り、少し行くと埃っぽい採石場のようなところがある。たまに通るダンプカーはここから出入りしているようだ。ということはこの先はダンプカーの往来もないということである。ここからは次第に狭い峡谷に入って行く。道はゆるやかに宮川をさかのぼって行き、勾配は上っているのかよくわからないくらいである。けたたましい蝉しぐれが一層暑さを助長する。途中工事中のため道幅が狭くなっており、対向車が来ると通りにくい箇所が二ヶ所ほどある。
正確な場所は覚えていないが、橋のたもとで最初の休憩をして川の写真を撮る。河原では水遊びを楽しむ家族連れが多い。自転車で走っているときは風があってあまり暑さを感じないが、一旦止まると焼け付くような暑さが襲ってくる。休憩していると余計暑いので早々に出発する。滝谷・岩井の集落を通過してしばらく上っていくと「ここから大杉谷」の標識がある。ちなみに大杉谷というのはここの地名であり、七ッ釜滝で知られる大杉谷とは異なる。ここはもう台高山脈南部の1200m級の急峻な山々に囲まれた山峡の地である。 その標識からすぐのところに「清流フェスタ」ののぼりが立っていて、駐車場に入りきれない車が道路まであふれている。公園では抽選会のようなものをやっていて、白いテントの下には景品が山積みされており、たくさん人が集まっていた。
国道422号線は檜原で宮川と別れて支流の檜原谷川の方に入って行き、ここから先は県道53号線となる。国道は現在工事中のため時間制限通行止となっている。いよいよ峡谷らしくなってきて、素晴らしい渓谷美の中を走る。久豆の集落に入ると一旦2車線の広い道となる。このあたりは少しだけ開けた感じがする。大杉谷橋の上で写真を撮るために休憩する。宮川ダムまであと2kmの標識がある。
橋を渡るとすぐに上り坂となり、ダムの堰堤まで標高差約80mを一気に上る。ここが唯一の上りらしい上りだ。ずっと林の中なので暑さが和らぐのが幸いである。だらだらと続く少し急な坂をかなり上るとようやく宮川ダムの巨大な堰堤が見えてくる。ダムに着くともう汗だくになってしまった。とりあえず写真を撮って堰堤を対岸まで渡ってみる。対岸にも一応舗装された道がある。今年は雨が多かった割には水位が低くて地肌が露出している。
堰堤を引き返して湖畔の道をさらに進み、大杉のバス停まで走る。ここは大台ヶ原の登山基地となっており、観光案内所とバスの待合所兼食堂がある。自動販売機があったのでお茶を買って近くのベンチで昼食にする。バス停の前にはリュックを背負った小学生から大人まで混じった団体が集まっており、リーダーらしき人が「まもなく閉会式です」と呼びかけている。そのうちマイクで関係者の挨拶が聞こえてきたが、いったい何の閉会式なのかよくわからなかった。
少し休憩した後、とりあえず3kmほど先の新大杉橋まで行ってみることにする。湖畔の道は木陰に入ると涼しくて気持ちがよい。この先は人家が全くなく、入ってくる車も非常に少ない。急峻な山々に囲まれた宮川貯水池の雄大な眺めを十分に堪能できる。やがて前方に赤い吊り橋が見えてきて、あれが新大杉橋だなと思う。しかし、すぐその先に予期せぬ素堀りのトンネルが現れた。トンネルはないものと思っていたのでライトは持ってこなかったのだ。長さはせいぜい200mくらいなのだが、照明がなく中は真っ暗である。直線で出口は見えているのでまっすぐ走れば壁にぶつかるようなことはないだろうが、路面に穴でも空いていたら困るので念のために押して歩く。しかし、このトンネルの中はひんやりとして涼味満点だった。こういうトンネルはいかにも山奥に来たという感じがして好きである。トンネルを抜けるとまもなく新大杉橋に着いた。ここでも対岸に渡ってみる。路面は格子状の鉄板になっており、下の川が透けて見えるという恐ろしい橋だ。渡り終えたところでは右側にダートの道、左側に舗装の道が続いている。
今回は新大杉橋を終点として引き返すことにする。ここで県道53号線は終わり、この先は県道773号線となっている。途中でダートになるのかどうかはわからないが、海山町の標識があるのを見るとこの道は峠を越えて熊野灘へ抜けられそうである。また橋を渡って左へ行った先には観光汽船の乗船場があり、大杉谷を経て大台ヶ原への登山口となっている。七ッ釜滝はそこからさらに何時間も歩かなければたどり着けない本当の秘境である。大台ヶ原も奈良県側からはドライブウェイが山頂近くまで通じていて誰でも簡単に頂上に立てるが、三重県側からはそう簡単には登れないのである。新大杉橋付近も訪れる人はほとんどなく、ちょっとした秘境の気分を味わえるところである。そして大杉谷から大台ヶ原にかけての地域は日本一の多雨地帯として知られている。今日も朝のうちは天気が良かったのだが、昼前には雲が多くなってきて曇りがちになった。実はこの辺だけ曇っていたようで、帰り道高見トンネルを抜けた奈良県側は完全に快晴となっていた。やはり日本一の多雨地帯は間違いなかったのである。
走行距離 | 走行時間 | 平均速度 | 最高速度 | 最高地点 | 最大標高差 |
48.49km | 2:19:15 | 20.8km/h | 39.5km/h | 290m 新大杉橋 |
155m |